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カール・セーガン著 『カール・セーガン科学と悪霊を語る』 (ISBN4-10-519203-5)
−第十二章“トンデモ話”を見破る技術−より、
良い議論の指針となりそうな「トンデモ話検出キット」の部分をご紹介いたします。よろしくご利用ください。 

平成十三年五月追記
平成十二年十一月に本書は改題され、お求めやすい文庫本になりました!
人はなぜエセ科学に騙されるのか〔上〕 ・〔下〕
(ISBN4-10-229403-1 & ISBN4-10-229404-X)です。


「トンデモ話検出キット」


裏付けを取れ。
 「事実」が出されたら、独立な裏づけをできるだけたくさん取るようにしよう。
議論のまな板に乗せろ。
 証拠が出されたら、さまざまな観点をもつ人たちに、しっかりした根拠のある議論をしてもらおう。
権威主義に陥るな。
 権威の言うことだからといって当てにしないこと。権威はこれまでも間違いを犯してきたし、今後も犯すかもしれない。こう言えばわかりやすいだろう。「科学に権威はいない。せいぜい専門家がいるだけだ」
仮説は複数立てろ。
 仮説はひとつでけでなく、いくつも立ててみること。まだ説明のつかないことがあるなら、それが説明できそうな仮説をありったけ考え出そう。次に、こうやって得られた仮説を、かたっぱしから反証していく方法を考えよう。このダーウィン主義的な選択をくぐり抜けた仮説は、単なる思い付きの仮説にくらべて、正しい答えを与えてくれる見込みがずっと高いはずだ(*)
身びいきをするな。
 自分の出した仮説だからといって、あまり執着しないこと。仮説を出すことは、知識を手に入れるための一里塚にすぎない。なぜそのアイディアが好きなのか自問してみよう。そして、ほかのアイディアと公平に比較しよう。そのアイディアを捨てるべき理由がないか探してみよう。あなたがそれをやらなければ、ほかの人がやるだろう。
定量化しろ。
 尺度があって数値を出すことができれば、いくつもの仮説のなかから一つを選び出すことができる。あいまいで定性的なものには、いろいろな説明がつけられる。もちろん、定性的な問題のなかにも深めるべき真実はあるだろうが、真実を「つかむ」方がずっとやりがいがある。
弱点を叩きだせ。
 論証が鎖のようにつながっていたら、鎖の輪の一つ一つがきちんと機能しているかどうかをチェックすること。「ほとんど」ではなく、前提も含めて「すべての」輪がきちんと機能していなければならない。
オッカムのかみそり。
これは使い手のある直感法則で、こう教えてくれている。「データを同じくらいうまく説明する仮説が二つあるなら、より単純な方の仮説を選べ」
反証可能性。
 仮説が出されたら、少なくとも原理的には反証可能かどうかを問うこと。反証できないような命題には、たいした価値はない。たとえば次のような壮大な仮説を考えてみよう。「われわれの宇宙とその内部の一切は、もっと大きな宇宙のなかの一個の素粒子(電子など)にすぎない」。だが、この宇宙の外からの情報が得られなければ、この仮説は反証不可能だ。主張は検証できるものでなければならない。筋金入りの懐疑派にも、推論の筋道がたどれなくてはならないし、実験を再現して検証できなけらばならないのだ。
(*)これは陪審員制度にもかかわる問題である。これまでの事例研究が示しているように、陪審員のなかには、かなり早い時期に−−−おそらくは冒頭陳述を聞いた段階で−−−心を決めてしまう人がいる。そしていったん心を決めてからは、それに合うような証拠だけを受け入れ、逆の証拠は受けつけないのだ。こういう陪審員は「仮説を複数立てろ」の方法など思いもよらないのだろう。

同章より「トンデモ話検出キット」の使用方法についての部分を引き続きご紹介いたします。

「トンデモ話検出キット」の使用方法

「これは知識だ」という主張に出くわしたら、”トンデモ話検出キット”を取り出そう。優秀なキットなら、そうした主張を吟味するときにやるべきことだけではなく、やってはいけないことも教えてくれるはずだ。また、よくある論理的な落とし穴や、言い回しの罠にも気づかせてくれるだろう。宗教と政治の分野には、そんな落とし穴な罠にはまった事例がたくさんころがっている。それというのも、宗教や政治にだずさわる人たちは、互いに矛盾する二つの命題をともに正当化せざるをえない立場に立たされることが多いからだ。以下にそんな例をいくつか挙げてみよう。


<対人論証>議論の内容ではなく、論争相手を攻撃すること。
スミス師は聖書根本主義者である。したがってスミス師が進化論に対してどんな反対意見を唱えようとも、まともに取り合う必要はない。
<権威主義>  
例:リチャード・ニクソン大統領をぜひとも再選すべきである。なぜなら、ニクソン大統領は、東南アジアでの戦争を終結させるための計画をもっているからだ。あいにくそれは極秘計画なので、選挙人にそのすばらしさをわかってもらうすべはない。(これは「大統領なのだからニクソンを信頼しろ」ということに等しい。それがまちがいであることは後にわかった。)
<「そうじゃないと具合が悪い」式の論証> 
例:神はたしかに存在して、罰と報いとをわれわれに割り振っておられる。さもなければ、社会は今よりももっと無法で危険なものになり、無政府状態にさえなっていたかもしれない(*)。
例:妻殺しの容疑でマスコミを騒がせた裁判があった。その裁判の被告人は、有罪にされるべきである。さもないと、男たちにどんどん妻を殺せとけしかけることになる。
<無知に訴える>虚偽だと証明されないものは真実だ、あるいは、真実だと証明されないものは虚偽だという主張。 
例:UFOが地球に飛来していないという証拠はない。したがってUFOは存在している−−−そして宇宙のどこかに知的生命体が存在している。
例:宇宙には無数の世界があるかもしれないが、地球よりも道徳的に進んでいる世界は一つも知られていない。したがって、われわれはやはり宇宙の中心なのである。(結果に飛びつく堪え性の無さに対しては、この言葉で批判しておこう。「証拠の不在は、不在の証拠にあらず」)
<特別訴答>「手前勝手な議論」ともいう。苦し紛れに使われることが多い。

問:一人の女が、命令に背いてリンゴをたべるよう一人の男をそそのかした。それぐらいのことで、慈悲深い神が後世の人々を苦しめるような事をなさるだろうか?
答:あなたは自由意志という難解な教義を理解していない。

問:一つの位格のうちに、父なる神、その子、聖霊が存在しうるものだろうか?
答:あなたは三位一体の秘跡を理解していない。
例:
問:神は、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の信者に対して、愛と哀れみという英雄的な手段をとるように命じられた。それなのに、どうしてこれほど長きにわたって残酷な行いをお許しになっているのだろうか?
答:あなたはやはり自由意志がわかっていないようだ。いずれにせよ、神のはからいは神秘的なものである。
<論点回避>答がはじめから決まっている。
例:暴力的犯罪を抑制するために、死刑を制度化するべきである。(しかし、死刑を設けたからといって、暴力的犯罪の発生率は低下するだろうか?)
例:昨日証券市場が低落したのは、投棄家による人為的調節と利食いのせいである。(しかし、「調節」と利食いが原因だという証拠はあるのだろうか?こんな説明をしたところで、何がわかるというのだろうか?)
<観測結果の選り好み>「都合のいい場合ばかりを数える」ともいう。哲学者フランシス・ベーコンによれば「当たりを数えて外れを忘れる」(*)。
例:自州から大統領がたくさん出たことは自慢するが、連続殺人犯がたくさん出たことは黙っている。
<少数の統計>「観測結果の選り好み」の親戚。
例:五人に一人は中国人だと言われているが、そんなはずはない。現に、私には百人の知り合いがいるが、中国人は一人もいない。
例:スリーセブンが出た。今夜は負けるはずがない。
<統計の誤解>
例:ドワイト・アイゼンハワー大統領は「アメリカ人の半数は平均以下の知能しかもたない」と知らされて、驚きと警戒の念を表明した。
<無定見>
例:仮想敵国に対しては、最悪の事態に備えて慎重に対処しなくてはならない。しかし、環境危機に関する科学的予測には取り合わなくてもよろしい。科学的予測は「証明」されていないからである。
例:旧ソ連で平均寿命が短くなったが、これは共産主義の失敗のせいである(共産主義は何年も前に消滅しているのだが)。米国の乳児死亡率は高いが、これは決して資本主義の失敗のせいではない(現在米国の乳児死亡率は、先進産業諸国のなかでいちばん高い)。
例:宇宙が未来永劫存在するというのはもっともだが、宇宙には無限の過去があるなどという考えは馬鹿げている。
<前提とつながらない不合理な結論を出す>「関係の無い話をする」ともいう。
例:神は偉大なるがゆえに、我が国は栄える。(たいていの国は、これが真実だと触れ込んでいる。ドイツ風に言えば「神はわれらとともに居ます」。「不合理な結論」にひっかかる人は、ほかの可能性に気づいていないだけの場合が多い。)
<因果関係のこじつけ>「○○をやったら××になった。それゆえ○○は××の原因である」
例:マニラ大司教のハイメ・シン枢機卿はこう言った。「私の知り合いのある女性は、二十歳でありながら六十歳のように見えるが、これは避妊ピルを服用したせいである」
例:女が選挙権を得るまでは、核兵器は存在しなかった。
<無意味な問い>
例:「無敵の力」が「不動の物体」に出会ったらどうなるか?(無敵の力などというものが存在するなら不動の物体は存在しないし、逆に、不動の物体が存在するなら、無敵の力は存在しない。)
<真ん中の排除>「虚偽の二分法」ともいう。中間の可能性もあるのに、両極端しか考えないこと。
例:「夫の味方をすればいいわ。悪いのはいつも私なんだから」
例:「あなたは国を愛しているか、国を憎んでいるかの二つに一つだ」
例:「問題を解決する気がない者は、問題を引き起こしている側の人間だ」
<長期と短期の混同>これは「真ん中の排除」に含まれるが、重要なケースなので別項を設けた。
例:「栄養不良の子供のためのプログラムなど作れないし、就学前教育のプログラムも作れない。われわれに必要なのは、路上犯罪に緊急に対処することだ」
例:「莫大な財政赤字を抱えているというのに、宇宙を探ったり、基礎科学を追求したりしている余裕などない」
<危険な坂道>「ブレーキが効かない」ともいう。これも「真ん中の排除」と関係がある。
例:妊娠初期の中絶を許せば、月満ちて生まれた子供も殺されてしまうだろう。
例(逆の例):いったん国が中絶を禁止すれば、妊娠期間中ずっと女性の体についてあれこれ指図するようになるだろう。それゆえ、たとえ臨月であっても中絶を禁止すべきではない。
<相関と因果関係の混同>
例:調査から明らかなように、大学卒業者には、それ以下の教育しか受けていない層にくらべて同性愛者が多い。したがって、教育は人をゲイにする。
例:アンデス山系の地震は、天王星の最接近と相関がある。したがって、天王星が最接近するとアンデス山系に地震が起こる。(天王星よりも近くて重い木星については、そのような相関がみられないのだが。)(**)
<わら人形>「架空の論敵に吠える」ともいう。
例:科学者という連中は、生物は単なる偶然でひょっこりできあがったと考えている。(こういう問題設定は、ダーウィン主義の中心概念をわざと無視している。その中心概念とは、「自然はうまく行くものは残し、うまく行かないものは捨てることによって、徐々に今のような姿になった」という考え方である。)
例:(これは短期と長期の混同にも関係する。)環境保護論者は、人間よりもスネイル・ダーター(絶滅の危機に瀕しているスズキ目パーチ科の小魚)やニシアメリカフクロウの方を大事にしている。
<証拠隠し>真理の反面しか語らない。
例:レーガン大統領暗殺計画の「予言」がテレビで放映された。その予言は驚くほどよく当たっていて、広く話題になった。(しかし、その予言は、事故が起こる前に収録されたのだろうか、それとも事件後に収録されたのだろうか?細かいことを言うようだが、これは重要なポイントだ。)
例:政府は腐りきっているから革命を起こさなければならない。革命を起こす以上、多少の犠牲はしかたがない。(それはそうだろう。しかし、前体制よりもはるかに多くの人々が殺されるような革命でもいいのだろうか?革命に関するこれまでの経験は何を物語っているだろう?圧政に対する革命は、どれもみな人民のために起こったのだろうか?)
<故意に意味をぼかす>「逃げ口上」ともいう。
例:アメリカ合衆国憲法に明記された三権分立によれば、合衆国は議会の宣言なしに戦争をはじめることはできない。一方、大統領には対外政策についての権限が与えられており、戦争の指揮が任されている。これをうまく利用すれば、大統領が再選を果たすための協力な切り札になるだろう。そこで、どちらの政党から出た大統領も、愛国心を煽り立て、戦争になにかほかの名前をつけて戦争の種をまくという誘惑にかられる(戦争の別名としては、政治活動、武装襲撃、防御反応、紛争解決、アメリカの権益防衛、大義名分のつくさまざまな作戦名などがある)。政治的なもくろみのもとに言葉が再発明されることはめずらしくない。なかでも戦争に対する婉曲語法は一大ジャンルになっている。タレーランはこう言った。「民衆にとって唾棄すべきものとなった古い名前の制度に、新しい名前をつけること−−−これは政治家としての重要なテクニックである」

”トンデモ話”には以上のような論理的な落とし穴や言い回しの罠がある。これを知っておけば、われわれのキットは完成だ。もちろん、どんな道具とも同じように、”トンデモ話検出キット”もまちがった使われ方をするだろうし、文脈をはずれて適用されることもあるだろう。考える事を肩代わりしてくれる、退屈な機械に成り下がるかもしれない。しかし、このキットを賢く使えば世の中を変えることができるだろう。とくにだれかと議論するときには、事前に自分の話をチェックしておこう。


なお、使用方法の文中の(*)や(**)には著者の注釈がありましたが割愛させていただきました。m(_ _)m.
これ以上知りたい方は、「ゴー宣5巻」の2倍ちょっとの値段で、「ゴー宣5巻」の10倍の濃さがある
『カール・セーガン科学と悪霊を語る』(ハードカバー)/人はなぜエセ科学に騙されるのか〔上〕 ・〔下〕(文庫)
を是非お買い求め下さい!!!(キットに引っかかりそうな宣伝文句....(^^;)


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